英•キール大学における『サイレント・フォールアウト』上映会 

2025年2月27日、キール大学(イギリス)にて生徒へ向けての上映会が開催されました。

レポートをいただきましたので共有させていただきます。

はじめに

2025年2月27日、キール大学にてドキュメンタリー映画『サイレント・フォールアウト』の上映会が開催されました。
本作は冷戦時代の核実験の影響を浮き彫りにし、核実験禁止を求めた市民運動に関わった人々の物語を描いています。本
イベントはキール大学の学生を主な対象として企画されましたが、学部生、修士・博士課程の学生を含む幅広い層が参加
しました。さらに、日本、ニュージーランド、レバノン、英国など6つ以上の異なる機関からリモート参加者も集まりま
した。


本イベントは、戦争と平和、国際的な核軍縮運動、歴史的な対立するNarrative(物語)に関する講義の補完として位置
づけられました。上映会は、学生たちが講義で学んだ内容を実際に活用し、意見を表現する機会となるとともに、映画監
督である伊藤秀明氏に直接質問できる貴重な場ともなりました。
上映後、学生たちの学習体験への影響を測るためのアンケートを実施しました。本報告書は、上映会によって得られた成
果をまとめるとともに、上映費用を支援してくださったベッキー・ガルノー基金への感謝を表すものです。

参加者

対面参加者

•キール大学の学部課程「戦争と平和」モジュール、および修士課程「紛争後の開発」モジュールの学生
•キール大学コミュニティのメンバー(日本語講師、人文社会科学系の教員3名、ITスタッフ1名、博士課程の学生1
名)

オンライン参加者

•国連プログラム「核兵器のない世界のためのユースリーダーファンド」のメンバー2名
•広島平和研究所のメンバー1名
•「原子力不安フェローシップ」のメンバー1名
•英国「核軍縮キャンペーン(CND)」のメンバー1名
•ケンブリッジ大学の博士研究員1名
•参加者は、レバノン、日本、ニュージーランド、英国からオンラインで参加

その他の特別参加者

•増田百合子氏(東京在住の通訳者)
◦核被害者(被爆者)の通訳経験が豊富であり、ピースボートやノーベル平和賞授賞式(日本被団協、オス
ロ)での通訳経験を持つ。また、本映画に登場するダウンウインダー(核実験の影響を受けた住民)の
一人であるメアリー・ディクソン氏の通訳も担当。
•伊藤秀明監督
◦45分間のQ&Aセッションに参加。

Q&Aディスカッション

上映後、参加者たちは映画に関する重要なテーマについて意見を交わしました。

映画制作について

Q
本日は貴重な上映をありがとうございました。伊藤監督に質問ですが、この映画の制作にはどれくらいの時間がか
かりましたか? また、資金調達は大変でしたか?

本日は感動しました。本当にお疲れ様でした。言葉では言い表せないほど感謝しています。多くの若い人たちにこ
の映画を観てもらいたいです。
A

映画の制作には21年を要した。また、彼が幼稚園教諭から映画業界へと転身した背景には、核問題への関心があった。

制作過程での課題

Q
上映をありがとうございました。映画を制作する過程で最も困難だったことは何ですか?
A

核問題に対する社会の無関心が最大の課題である。一般の人々との対話を試みても反応が鈍い、あるいは無関心であることが多い。今回、英国の大学生から上映の依頼を受けたことにとても感激している。

制作の動機

Q
この映画を作るきっかけは何でしたか?
A

核実験の影響を受けた20万人の漁師たちの存在に触発された。プルトニウムによる汚染に苦しむ彼らが、認知と補償を求めて闘っている姿に深く共鳴した。

学んだこと

Q
とても重要な作品を上映してくださり、ありがとうございました。隠された歴史を伝える素晴らしい映画でした。
この制作過程で、監督が最も衝撃を受けた事実や物語は何でしたか?
A

最も重要な教訓は、放射能被曝の証拠として乳歯を集めた女性たちの行動です。彼女たちの活動が、ケネディ政権の核実験禁止条約の追求に大きな影響を与えたからです。

類似する研究プロジェクト

Q
乳歯研究に似た研究プロジェクトはありますか?
A

2011年の福島原発事故後、日本の母親たちが乳歯を集める取り組みを試みたが、十分な数は集まらなかっ
た。ただし、映画で紹介された乳歯研究は、世界中から乳歯のサンプルを集めたものであり、まさに国際的かつ世代を超えた取り組みだった。

映画制作に関するアドバイス

Q
隠された事実を映画で伝えたいと考えている人に、どのようなアドバイスをしますか?
A

情報を分かりやすく伝えることが何よりも大切。過度にセンセーショナルにするのではなく、冷静で客観的なアプローチを取り、確固たる証拠を提示することが重要。また、放射線のような科学的なテーマを扱う際も、単なる物理学の話に終始せず、「核問題とは最終的に人々と歴史の問題である」という視点を忘れないことが大切。

上映後の学生アンケート結果

映画上映後、学部生を対象に短いアンケートを実施しました。アンケートは4つの簡潔な質問で構成されており、その主
な回答を以下にまとめます。

1. 『Silent Fallout』から何を学びましたか?

学生たちは、放射線被曝に対する認識を深め、過去と現在の核政策における矛盾に対して批判的な視点を持つようになっ
たと述べています。

放射線は誰もが影響を受けているものだと知りました。これまで考えていたよりも詳細な影響があることに驚きました。
隠された影響が多くの人々に及んでおり、今もなおその事実を知らない人がいることを知りました。
放射線の長期的かつ壊滅的な影響について学びました。
健康や環境への影響――核の降下物が深刻な健康被害を引き起こしたこと。政府の秘密主義と誤情報の問題。核政策が現在も重要な問題であること。
マーシャル諸島やクリスマス島、ネバダでの核実験と、その長期的な影響について知りました。
現在でも核の影響が続いていることを全く認識していませんでした。また、核実験の影響は日本やアメリカの市民だけでなく、1950~60年代にはイギリスや他国の人々にも及んでいたこと、さらに、アメリカのほぼすべての地表が今も放射能汚染されていることを知りました。日本人として、20万人以上の漁師が太平洋での核爆発により被曝したという事実には特に驚きました。

2. この映画は、核兵器や冷戦、その他の関連する問題についてのあなたの考えを変えましたか?もしそうなら、どのように?もし変わらなかった場合、その理由は?

映画は、核の歴史、政府の責任、軍事戦略、人命の価値など、複雑な問題について考えるきっかけを与えました。

核戦争は本当に回避されていたのか?いや。核兵器の抑止力がもたらした利益よりも、核実験が与えた害の方が大きかったのか?まだ分からない。
考え方を変えたわけではないが、核問題についてもっと深く考え、解決策を探したいという気持ちになった。
核兵器は単なる地政学的なツールではなく、実際に人々や環境に壊滅的な影響を与えるものだということを改めて実感しました。この映画は、政府が冷戦時代に軍事戦略を人命よりも優先していたことを明らかにしています。
これほど広範囲に影響が及んでいるとは知りませんでした。
この映画を観て、核兵器の危険性やその長期的な影響への懸念がより強まりました。特に、核実験が一般市民に与えた影響を知ることで、政府が核技術をどのように扱うべきかという倫理的責任について、より深く考えるようになりました。

3. 映画で取り上げられた問題は、現在の世界情勢とどのように関連していますか?

学生たちは、環境問題や未来の世代への影響、情報の透明性、そして核兵器が依然として世界的な脅威であることと関連
付けていました。

核兵器はまだ無くなっていない。
現代においても、映画のテーマと密接に関連している。

3. 映画で取り上げられた問題は、現在の世界情勢とどのように関連していますか?

環境への影響と気候変動。核抑止の影響とその限界。ある女性が、核エネルギーと核兵器が世界を破壊すると語っていた。
映画が示した問題は、核拡散防止の重要性を改めて証明するものだった。
今のところ目に見える影響がないとしても、将来世代への影響を示す明確な証拠は存在しない。第二世代、第三世代の人々が将来的に癌やその他の病気を発症する可能性がある。また、核抑止と軍縮の議論は今も続いており、核エネルギーの安全性への懸念、核政策における透明性と責任の向上が求められている。

4. その他のコメント

ある日本人留学生からのコメントが特に印象的でした。このコメントは、授業や映画で扱われた問題についての深い考察
と、個人的な経験に基づく視点を反映しています。

私は福島出身で、原発事故の影響で住民全員が避難した地域に建てられた高校に通っていました。そのため、事故後の復興の困難さを痛感しており、安全がどこまで保証されるのかについて懐疑的な立場を取っています。しかし、エネルギーの観点から考えると、日本では電力供給の面で核エネルギーが最も効率的な発電方法であると考えています。そのため、私は核エネルギーに対して複雑な感情を抱えています。一方で、核兵器については、市民や社会に壊滅的かつ長期的な影響を与えるため、今後決して使用されるべきではないと強く信じています。

イベントの影響と今後の展望

このイベントは、学生たちにグローバルな核軍縮、環境問題、社会運動、正義、ジェンダー、世代間の影響など、Keele
大学の授業で取り上げられる多くのテーマと関連した多面的な議論の場を提供しました。多くの学生がこれらの問題に対
し批判的思考を持ち、今後の春学期においても引き続き取り組んでいく姿勢を示しました。

『Silent Fallout』の上映は、多様な背景を持つ学生に貴重な学びの機会を提供し、核の歴史や政策、そしてその現代的
意義についての理解を深めるものとなりました。この報告書は、こうした問題についての継続的な教育と対話の重要性を
示すものです。

この取り組みを支援してくださった Becky Garnault Fund に心より感謝申し上げます。また、議論に参加してくれたす
べての参加者の皆さんにも感謝いたします。本イベントは、核軍縮と環境正義に関する国際的・学際的な対話の必要性を
強く示しました。この報告書は、『Silent Fallout』の制作チームと共有されます。彼らもまた、英国の若者たちと継続
的な対話を望んでいます。

また、私自身も博士課程の学生として初めてこの映画を観る機会を得て、監督ともつながることができました。Becky
Garnault Fund の支援、そして Keele大学の教職員コミュニティの協力に深く感謝いたします。

報告書作成者:フェルナンド・フランコ・カストロ・エスコバル
Keele大学 博士課程2年生

この記事を書いた人

SILENTFALLOUT