全米で稼働中の原子力発電所(NPP)に近い郡(County)ほど、がんによる死亡率が有意に高いことを明らかにしたという論文がSNS上で話題になっています。
26年2月23日付の国際学術誌『Nature Communications』に掲載された論文「National analysis of cancer mortality and proximity to nuclear power plants in the United States」によると、2000年から2018年の間に、原子力発電所への近接性に起因すると考えられるがん死亡数は約11万5,586件に上り、年間平均に換算して約6400件超の死亡を意味するとのこと。
しかし、同時に科学者から「実際の被ばく線量データが全く含まれていない」のでデータは根拠に乏しいと、猛反発が起きていることも記事中で指摘しています。
低線量被ばく(一般的に100ミリシーベルト以下の放射線被ばく)の難しいところは、原因の特定が難しいこと。
「どんなに少ない被曝(ひばく)でも、線量に応じた健康への影響があると仮定し、これ以下なら安全という数値(しきい値)は存在しない―。放射線から身を守る放射線防護の考え方は、この仮定に従って「しきい値なし直線(LNT)モデル」が国際的に採用されている」(中国新聞16年7月26日付)
この定義からするとハーバード大の調査はまっとうだと思ったのですが、科学界の反発は相当のようです。
疫学調査を行ったのはハーバード大学公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)の研究チームで研究の責任著者であるペトロス・コートラキス教授(環境保健学)は、「気候変動へのクリーンな解決策として原子力が推進されている現在、原子力発電所と健康への影響に関する更なる研究が不可欠である」と、意欲を示しているそうです。
推計された年間6,400件超という死亡のサインを完全に無視することもまた、公衆衛生の観点からはリスクを伴うとも指摘しています。議論を起こして「より完成度の高い研究」を行うことに研究者たちの目的があるように思います。
じつは「ハーバード大学公衆衛生大学院」は乳歯調査でも有名です。ルイーズさんたちがセントルイスの女性たちが行った「乳歯調査(Baby Tooth Survey)」の保管資料と、それに基づく現代の研究はここに引き継がれています。
2001年にワシントン大学の旧兵器庫から未測定の乳歯約10万本が発見され、現在はハーバード大学公衆衛生大学院(T.H. Chan School of Public Health)のマーク・ワイスコフ教授らがこれらを引き継がれました。
どうしてハーバード大にセントルイスの乳歯が保管されたのか?
映画でもおなじみ、放射線と公衆衛生プロジェクト(RPHP)エグゼクティブディレクター、ジョセフ・ジェームス・マンガーノさんが、監督とのインタビューで語っていました!
「ある日私が事務所で仕事をしているとセントルイスにあるワシントン大学の生物学の教授、ダニエル・コールから電話がかかってきました。
『大学の倉庫を見に行ったら乳歯を見つけた』と言うのです。
32万本の歯は全部検査に使われたと思っていました。32万本の歯の内の10万1000本が検査に使われずに残っていたのだと分かりました。歯を検査するには粉にして液体に入れます。歯を破壊しなければならないのです。それが見つかったのです。
『あなた方欲しい? ワシントン大学はいらない』
そうしてワシントン大学からRPHPに寄贈されたのです。一生に一度のチャンスが来たと思いました。
すべての歯が小さな封筒に入れられ、歯の情報が書かれた小さなカードが入っていました。私たちはそれらの情報をコンピューターに取り込み、歯の一部を使って研究を行いました。
50歳までにがんで亡くなった人の歯を特定し、それらの歯のストロンチウム90を検査し50歳時点で生存していた健康な人と比較したのです。その結果、癌のグループは健康なグループと比較してストロンチウム90が2倍以上あることがわかりました。私たちはそれを医学雑誌の論文に発表しました。
私たちがやりたいのはこの研究を拡大してもっと大きなサンプルで行うことです。
2016年に大きな転機がやって来ました。ハーバード大学の公衆衛生学の教授であるマーク・ワイスコフを紹介されたのです。
彼はアメリカ政府の国立衛生研究所から5年間の助成金を得ました。1年目にはデジタルファイルに入力するためにお金が使われました。101,000本の歯に関するすべての情報入力が2021年に完了しました」
(22年7月12日マンガーノさんへのインタビュー取材メモより)
当時乳歯を提供したドナーの現在の健康状態を追跡し、幼少期の放射線暴露や重金属暴露が、老年期のがん、認知機能の低下、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの疾患リスクにどう影響しているかを分析しているそうです。
そんななか25年には新たな研究が発表されていました。
セントルイス乳歯・老年期健康研究(SLBT)の参加者データを用いた結果、参加者が幼少期にセントルイス北部のミズーリ川支流であるコールドウォーター・クリークの近くに住んでいたほど、生涯にわたってがんを発症するリスクが高いことが示されました。SLBT参加者4209人(現在平均年齢63歳)のサブサンプルのうち、1009人ががんを発症したと自己申告しました。そのうち、がんを発症したと申告した人の割合は、クリークの近くに住んでいるほど高く、1キロメートル未満に住んでいる人は30%、1~5キロメートルは28%、5~20キロメートルは25%、20キロメートル以上に住んでいる人は24%でした。
そのマーク教授らは現在トランプ政権とも闘っているとのこと。国民の命と健康のために政権の妨害にも屈しないハーバード大の先生たちにエールを送りたいです。






