今日は何の日?
5月15日は映画「放射線を浴びたX年後」でも描かれている海洋調査船「俊鶻丸(しゅんこつまる)」が51日間の航海をスタートさせた日です。

太平洋上で何度も核実験を行なってきたアメリカ。中でも54年3月1日に第五福竜丸を被ばくさせた「ブラボー」は、今までの核実験よりも威力が大きかったのですが、アメリカ原子力委員会のストローズ委員長は魚や海水の汚染を否定し、日本政府も水爆実験の責任を取ろうとしませんでした。
「原爆マグロ」と呼ばれて魚屋さんやお寿司屋さんが廃業の危機に直面する中、動いたのは水産庁の職員たち。マグロを輸出品として扱うことから危機感を抱いていたのです。
「アメリカ政府は事件をまったく過小評価していた。したがって、第五福竜丸の被災者をはじめ、水産業界の大損失にたいする補償をアメリカに請求するにしても、実地調査でうごかぬ証拠をつきつけることが不可欠であった」と、後に著書『死の灰と闘う科学者』(岩波新書)で指摘しているのは、気象研究所所長の三宅泰雄さんです。
水産学、放射能学、気象学、海洋学、医学等を専門とする22名の科学者とマスメディアの記者らを乗せて54年5月15日から7月4日にかけて航海を実施したのです。(前回3月11日「SFジャーナル : 「死の灰」を浴びながら調査した・俊鶻丸のメッセージ」より)
俊鶻丸の功績はたくさんあり、そのうちの一つが世界初・海の食物連鎖「生物濃縮」を解明したことです。2008年6月5日伊東監督のインタビューに答えたのは、水産庁南海区水産研究所の職員、本間操さんです。マグロを中心にはえ縄をしかけて捕獲し解剖してから、筋肉、皮、それぞれの臓器ごとに放射線量を測定していきました。カツオの肝臓からは4万8000cpm(単位:カウント)もの放射線量が検出されました。

放射性物質は薄まらない
もう一つ重要な気づきがあります。
三宅さんの著書も書かれているように「放射性物質は水に薄まらない」ということ。
〈海洋の深さは、平均三八〇〇メートルもあって、海洋にはたしかに巨大な量の水がある。しかし、海水の密度は底に近づくほど、しだいに大きくなり、上下に安定な成層をなしている。したがって、上下の方向に水を混合することは、非常にむずかしい。
海洋に廃棄物をすてても、水がたくさんあるから、すぐうすめられてしまう、と人々はかんがえがちだ。しかし、その考えはまちがいである。海洋では、水平の方向にも、密度のちがう異質の水が、たがいにモザイクのようにならんでいる。その境は不連続面でしきられていて、水は交換できない。そのモザイクのなかを、海流がまるで大河の水のようにながれているところでもある。海洋では水は、水平の方向にも、かんたんにはもじりあわないのである〉 三宅泰雄著『死の灰と闘う科学者』(岩波新書)より
そして、ビキニ環礁付近から流れ出た放射性物質は、深さにして100メートルくらい、幅数十キロから数百キロくらいの狭いベルト状になり、大部分は西の方向にゆっくり流れていった。ビキニ・エニウェトク環礁から1000キロ以上離れたところの海水からも容易に放射性物質が検出されたというのです。
被ばくを覚悟で爆心地を目指した
私が気になったのはもう一つあり、乗組員のみなさんの健康状態です。伊東監督が2008年5月、岡野眞治さんにインタビューした取材メモからは、「被ばく」を覚悟の上で爆心地を目指したことがわかりました。
(2008年5月1日神奈川県鎌倉市にて)
伊東 俊鶻丸の、海水の汚染度なんですけど、どの程度の汚染だと認識したら良いんですか?
岡野 そうですね・・・何を例えにしたら一番良く分かるのかな。
伊東 例えばですけどJCOの放射能漏れだとか、広島・長崎の・・・。
岡野 あれよりははるかに多いですよ、あんなもんじゃないですよ。
伊東 どの程度という風に考えれば良いんですか、それは。
岡野 チェルノブイリとかは特別ですけど、そうですね、何と比較したら一番良いのかな。
例えばね、マストミ(増富)のラドン温泉の温泉の水に比べるとそれの10倍とかね、けっこう何ていうのか、海の上を走ると放射線のレベルがありますからね。元々海の深いところで熱水が出てくるところは放射能多いですけどね。ああいうのはもっと多いところがありますけどね、沖縄のそこなんかもそうだし。小笠原なんかも熱水が出てくる水なんかは放射能多いですけどね。
伊東 例えば広島の原爆の放射能の値と俊鶻丸が行った時の海水の被爆というのは・・・。
岡野 ちょっとそれは比較できない、尺度が違うし、放射能って時間が経ったら減りますからね。それから広島なんかドカンと爆発した直後は多いけど、どんどん減っていきますからね。あそこで汚染したのは減るものは減っちゃって、あとなかなか減らないものは残ってて、それでもって放射能がありますから。
伊東 海水のところでマグロ船が操業を何十日か続けたとしたら被ばくするという風に考えて良い?
岡野 実験中だからね、上から降ってきますからね。
伊東 どの程度の被爆と考えて良い?
岡野 それはやっぱり福龍丸の人が亡くなったりしてますからね。ギリギリですよ、そういう点では。そういう意味じゃあみんな被ばくした割にはすぐ亡くなった方は居ないし、ただやっぱりあのくらい浴びるとそうとう影響はありますよね。
伊東 人命に関わる程度の被爆?
岡野 体に影響があるくらい当たりますね。
科学者たちが命がけで検証した事実は、後日報告書としてまとめられました。時が経つにつれて風化してしまいますが、アメリカが核を持つためにどれだけの犠牲を払ってきたのか。これからもしっかりと検証していきたいと思います。


